20年以上前に当サイトで掲載されていたコラム「不動産屋の裏話」がブログとしてここに復活。
不動産屋の古き良き時代から現在までをご堪能あれ。
No.71 賃貸物件の入居時初期費用
 賃貸物件の入居時初期費用というのは、賃貸契約を結ぶ時に支払うまとまったお金のこと。不動産の賃貸の場合、契約と決済(支払い)は同日に行われることがほとんどなので、実務的には、貸主と借主が契約書を読み合わせ、お互いに記名・押印した後に借主から支払われます。

 入居時初期費用の内訳ですが、先ずは「前家賃」。読んで字のごとく家賃の前払い分のことですね。これって法律を勉強したことが無い人には少し分かり難いのですが、民法614条にはっきりと書いてあるように、実は家賃の支払いは後払いが原則。例えば8月分の家賃(8月1日から8月31日までの家賃)だったら、月末の8月31日に支払えばOKです。じゃあ、どうして入居時初期費用に前家賃なんていう項目があるのかって?そんなの当たり前じゃないですか。1ヶ月間住むだけ住んで8月31日に逃げる人が続出するからです。マックで食事後にレジへ行って会計をするシステムにしたらどうなるか想像してみてください。そんな訳で、賃貸の家賃の支払いは前払いにする旨を約款や特約に記載して前家賃として徴収しているのです。

 それから入居時初期費用の内訳とされるのが、「敷金」と「礼金」。「敷金」というのは賃貸契約から生じる債務の担保として借主が貸主に預け入れるお金、つまりデポジットのこと。「礼金」というのは貸主に対して支払う謝礼のこと。敷金、礼金ともに月額家賃の0ヶ月分から2ヶ月分程度が多いでしょうか。

 そして「仲介手数料」。契約締結の報酬として不動産屋に支払う報酬のこと。報酬の額は宅建業法で決まっていて、居住用物件の場合、依頼者一方から受領できる報酬は原則、借賃(家賃)の0.5ヶ月分まで、ただし、承諾を得ている場合には、依頼者から借賃の1ヶ月分まで受領できます。
 あとは「火災保険料」が15,000円から25,000円程度、保証会社の「初回保証料」が家賃の0.5ヶ月分程度ではないでしょうか。

 ここまでが、以前からある、いわば伝統的な入居時初期費用。長年にわたり家賃の4ヶ月分とか5ヶ月分が相場だなんて言われてきました。何?費用の説明ばかりで全然、裏話になってないって?はい、はい、ここからが本題です。
 そんな賃貸の入居時初期費用ですが、近頃は新手の項目が目白押し。
 例えば「消毒料」。室内に消臭スプレーを撒くだけのところが多いです。以前、北海道のア●●●●●●プがスプレー缶を爆発させた事件で広く知られてしまいましたね。未使用品があれだけ残っているのだから、そもそも施工の事実自体も疑わしいし、入居者が自分でバルサンを焚いた方がスッキリすると思いますけどね。

 それから、いわゆる生活サポートの類。「24時間入居者サポート」とか「24時間生活サポート」、「24時間安心サポート」とか色々と名前は変わりますが、要は入居中にトラブルが起きた時に、業者が駆け付けて対応するといったもの。でもよく考えればわかると思いますが、何かトラブルが起きたら先ず管理会社に報告すれば良いのだし、トラブル自体も大抵は設備に起因するもので入居者の責任となる事って少ないはず。万が一、借主負担となる場合でも、そんな時は加入済みの保険を使えばOKなのに…。何でお金を払うのかなぁ…。

 あとは「簡易消火器代」とか…。どうして賃貸物件の入居者が消火器の設置費用を支払う必要があるのでしょうか…。確かに消防法では建物の用途や広さによっては消火器の設置義務が生じますが、設置義務者は建物の所有者って書いてありますけど。それを入居者に払わせてしまうんだから凄いですよね。

 そして、いい加減に辟易してきたけれど「書類作成代」とか「事務手数料」。もはや宅建業法違反では。賃貸の重要事項説明書や契約書を作成したからといって、社会通念上、ちょっと無理でしょ。
 賢明な読者の皆さんは既にお気付きかと思いますが、前段の伝統的な入居時初期費用は、礼金など悪習とも言える部分はあるものの、基本的には円滑な賃貸生活を送るうえで必要不可欠なもの。なので広くて便利で立派な高額賃料の物件では入居時初期費用もそれなりに高額となるのは当たり前。それに反し、後段の新手の項目については、たったの1円も物件の所有者である貸主には入ることなく不動産屋の売上となるもの。

 それで何が問題かというと、このような、ぼ●●●り行為をマスターリース契約(一括借り上げ)を受託した大手ハウスメーカーや不動産会社が、あたかも賃貸業界の慣習やシステムであるかのように行っていること、そして賃貸物件の所有者が、自分の物件でそのようなことが行われていることを本当に知らないか、あるいはまったく関心が無いことです。
 良い物件を作ってそれに見合う高額な対価を得るのでしたら日本経済にとってもプラスでしょうが、強い者が知識や経験の浅い入居者に対し、人の褌で相撲を取っているようにしか思えません。