20年以上前に当サイトで掲載されていたコラム「不動産屋の裏話」がブログとしてここに復活。
不動産屋の古き良き時代から現在までをご堪能あれ。
No.61 事故物件(その2)
No.61 事故物件(その2)
 「ぼまいほう」って知っていますか?漢字で書くと「墓埋法」です。不動産屋の裏話をお読みいただいている賢明な読者の皆様は既にお察しかと思いますが、これは「墓地、埋葬等に関する法律」の略です。
 この法律の中で不動産屋が使うのが墓埋法の第10条。この条文には墓地を廃止できることが書いてありますね。最近では核家族化が進んで田舎にあるお墓を「墓じまい」して都市部の自宅の近くに改葬するケースも多いとか。いやいや、そっちのことではありません。自分のご先祖様のお墓を閉めるのではなくて、墓地全体やその一部の廃止です。

 前置きが長くなってしまいましたが、墓地の廃止が事故物件とどう関係があるのかって?はい、墓地と事故物件とはまったく関係はありません。ただ、それらが不動産取引の対象となった場合、心理的瑕疵に一定程度の影響を及ぼすということにおいては共通点がございます。
 前回の不動産屋の裏話 No.60 事故物件(その1)では、人の死の告知に関し疑義が生じそうな場合には、難しい判断をしてリスクを抱え込むよりは、告知をしないで済む方向に不動産屋は知恵を絞る傾向があると申し上げました。

 ところで、墓地を廃止した敷地にマンションを建てて売れると思いますか?数十年も前のことですが、かつて〇区の〇麻布で墓埋法10条に基づく地目変更登記をしたことがあります。とはいえ書類を作成して法務局に申請するだけですが…。確か法務局の登記官もさすがに現調(現場調査)に来た記憶が…。都会のど真ん中で周りはビルばかりだけれど、墓地から宅地への地目変更は難しいということで、いったん雑種地にしたような。まぁ、雑種地に建物を建ててしまえば宅地への地目変更は簡単ですからね。
 で、ここから先はウェブマスターは関与していないので想像上の話しです。この案件が、いわゆる「地上げ」(複数の狭い土地をくっつけて大きなビルが建てやすい広さや形状にすること)の最終段階だとしたら、何回か土地の合筆と分筆を繰り返すことにより、地番や地目といった登記情報の上では表面的には墓地であったことがわからなくなってしまいます。

 土地の地番は合筆(複数の土地をくっつける)すると、新しい土地には小さい方の番号の地番が振られます。また分筆(土地を複数に分ける)すると、ひとつの土地は元の地番のままで、残りの土地には元の地番の枝番(‐ハイフンの右側の番号)より大きい枝番が順番に振られます。ここで重要な点は、枝番が振られる際には周辺で既に使われている番号があると、それを飛ばして割り当てられるということです。なので隣同士の土地の枝番が何十番も離れることとなってしまいます。

 例えば、地番:38-5 地目:宅地 地積150㎡、地番:42-2 地目:宅地 地積175㎡、地番:42-3 地目:宅地 地積135㎡、そして墓地から地目変更した地番:42-4 地目:雑種地 地積40㎡の合計4筆500㎡の土地の上に50室の投資用のワンルームマンションを建築し、雑種地を宅地に地目変更して4筆を合筆すれば、地番:38-5 地目:宅地 地積500㎡の都心の立派なマンション用地に変身です。かつて墓地であった42-4という地番はもう出てきませんし、念には念を入れるのでしたら共用のゴミ集積場や道路等を作ってどこかのタイミングで分筆しておけば、ますます追跡は困難になります。ましてや近所同士の人間関係が希薄な大都会に投資用のワンルームマンションを建てれば、投資家である区分所有者はそこから得られる賃料収入しか興味はありませんし、そこに墓地が有ったことなど近隣から入居者の耳に入ることも滅多には無いと思います。まっ、マネーロンダリングとか学歴ロンダリングのようなものもありますから、事故物件ロンダリングがあっても不思議ではありません。