20年以上前に当サイトで掲載されていたコラム「不動産屋の裏話」がブログとしてここに復活。
不動産屋の古き良き時代から現在までをご堪能あれ。
No.80 退去時の紛失物と残置物
No.80 退去時の紛失物と残置物
 ホテルでは、チェックアウトの手続き中に、客室の備品や設備に損傷がないか、忘れ物がないかを確認する退室点検が行われます。また、病院でも退院の際には、看護師さんが患者と一緒に病室を見回してチェックをするものです。アパートやマンションの賃貸の場合でも、解約時には借主と管理会社のスタッフが、「退去立ち合い」と称して部屋の明け渡しの確認が行われます(というか、賃貸の退去立ち合いの方が本家本元の気もしますが)。いづれにしても、具体的な手順は違えど多くの業界で占有されていた部屋の明け渡しの際には、室内の破損や汚損はもちろんのこと、備品の紛失や利用者の忘れ物のチェックが広く行われているものです。

 そこで今回のお題は、退去時の紛失物と残置物。不動産、特に賃貸管理業界の退去立ち合い時の、紛失物と残置物のあれこれです。

 先ずは、紛失物。紛失物と言っても、ホテルの備品のタオルやハンガーを欲しくて盗んで行くのとは異なり、賃貸の場合は無意識の内に転居先へ持って行ってしまうのが特徴です。なぜか水回りの備品が多いですね。
 特に多いのが「排水エルボ」。洗濯機置場の床の防水パンから出ている、人間の肘(ひじ)の形をしたL字型の洗濯機の排水ホースを接続するためのパイプです。もちろん床側で排水管に接続しているものなので建物の備品扱いですが、洗濯機のホースの先に付けたまま転居先に持って行ってしまう方がとても多いです。気付いてすぐに送り返していただければ問題はありませんが、それが無理だと設備屋さんがパイプの径を測って適合するものを取り付ける必要があるため、数千円程度は請求されることになってしまいます。

 他には、吐水口・泡沫キャップ。これは何かというとキッチンの水栓の蛇口の先端の部分についている小さなパーツで、入居中、私物の浄水器を設置する際に取り外したまま紛失してしまうケースが多いです。大抵はリフォームの最終段階でルームクリーニングが入り、水を使用した際に発覚します。水栓ごとに形が異なるうえ、これが無いと水がバシャっと飛び散って使えないため、最悪の場合は水栓ごと新品交換となり多額の請求を受けることとなります。

 同様に私物の温水洗浄便座を設置した際に、退去時の原状回復の事を忘れて既存のノーマルの便座を処分してしまうのも定番です。これも便座の大きさやビス穴の形状を確認してからの発注になるので、1万数千円の請求になります。
 
 あとは細かいところで、流し台の排水口のカバー(菊割れゴム)。ゴミと一緒に捨てちゃうんですかねぇ。これも次に貸す時に無い訳にはいかないので、実費が請求されます。紛失物の復旧は、管理会社としては些細なことでも手間が掛かるうえ、収益にはなり得ないので本当に勘弁してもらいたいです。
 一方、残置物の方はというと、ベランダの物干し竿を筆頭に、私物の照明器具、エアコン、温水洗浄便座、浄水器、清掃用品(トイレ用品を含む)、自転車、ONU(光回線終端装置)・ルーター等が代表格。もちろん退去立ち合い時に発見すれば、その場で持ち帰っていただくよう促しますが、大抵は確信犯で引っ越しは既に終わってしまっているので、管理会社に処分を依頼してくるのが典型的なパターン。もちろん処分代の実費はいただきますが、正直なところ喜んで引き受けたい仕事ではありません。

 でもね、管理会社にとって最も残して行ってもらいたくないもの。それって何だか分かりますか?もちろん管理会社によっていろんな意見があるかと思いますが、弊社の場合は何といっても「ゴミ」。ゴミの処分を頼まれるのが特に嫌ですね。ご存知のとおり東京では出せるゴミの種類と曜日が細かく決められているじゃないですか。指定日の朝に、管理会社のスタッフがゴミを出しに行くのは、とてもハードルが高いです。特に粗大ゴミについては、支払済みのシールを貼っておくから指定日に出してと言われても、そんなに暇ではありません。ましてや指定日以外に出すような反社会的な行動はとれません。立つ鳥跡を濁さず(タツトリアトヲニゴサズ)とは、良く言った戒めだと思います。